毎日新聞朝刊 社会人も「時事力」磨き

累計志願者40万人超 各業界でニュース検定広がる

2018年10月16日(火)毎日新聞朝刊

 ニュースを読み解き、活用する「時事力」を認定する「ニュース時事能力検定試験」(略称・ニュース検定)の累計志願者数が、12日に締め切られた11月検定で40万人を超えた。受検者の大半は高校生や大学生だが、最近、社会人が目立つ。なぜ社会人に「時事力」が必要なのか。

警察、住民との「懸け橋」に

ニュース検定を受検する神奈川県警察学校の警察官=横浜市栄区桂町の同校で

 神奈川県警察学校(横浜市栄区)で学ぶ警察官185人が8月31日、ニュース検定2~3級を受検した。検定の公式テキストで自習し検定に備え、8割以上が合格した。

 この日受検した今中拓海巡査(23)は「テキストを読んでも、最初はなかなか頭に入ってこなかった。テーマごとに『つまり何なのか』の要点を探しながら読むようにすると、内容が分かるようになった」と話す。片岡拓己巡査(21)は「まずテキストの問題を解き、分からなかった部分について解説を読んで理解を深めた」と言う。

 同校は昨年、ニュース検定をグループ単位で受ける団体受検を始めた。学生寮では個室8部屋ごとに新聞を購読しているが、以前は新聞を読む姿はあまり見られなかったといい、社会常識やニュースをよく知らない人が多いことが課題だった。「自主的に学べる公式テキストがあり、検定合格という目標もあるニュース検定は、学生が社会に目を向けるきっかけになると期待した」と同校第一教養部学生第一課長の高木真幸警部(45)は話す。

 なぜ警察官に時事力が必要なのか。地域の住民と関係を築いたり、容疑者の心を開き事件の真相を聞き出したりするには、何気ない会話がきっかけになることが多い。同校第一教養部長(現・神奈川県警広報県民課長代理報道担当)の小柳徹也警視(51)は「そのためのコミュニケーションには幅広い知識が不可欠だ。自分で経験できることは知れている。さまざまな話題が載っている新聞に目を通し、社会の動きや世界情勢にアンテナを張っていなければ、治安を守ることはできない」と話す。

 今中巡査も「新聞に目を通すようになって、世の中にはさまざまな立場、意見があることも実感した。これからはそれらを踏まえて多くの人と接していきたい」と抱負を語る。

 

全社員に「一日一問」メール

 中小企業向け総務・管理部門支援サービスを手がける「エフアンドエム」(大阪府吹田市)では毎年、社員が団体受検する。受検料や公式テキスト代は会社が負担する。社員は3級から始め、2級合格が必須だ。全社員のパソコンやスマホに平日朝、「一日一問」を配信し、翌営業日までに解答しないとアラートメールが届く仕組みも整えた。

 森中一郎社長(57)には、「水俣病って何?」など社会的な常識を持ち合わせていない人が増えているという危機感があった。「時事問題に毎日取り組むことによって、ニュースに敏感になり、仕事にも生きる。職場の雰囲気も前向きになった」と効果を実感しているという。

 

昇格要件の一つに

 食品メーカー「カゴメ」(名古屋市)には、キャリア自立を目指すために、社員一人一人の知識やスキル、経験を可視化する「スキルポイント制度」がある。同社社員として何を身につけるべきかの指針でもあり、昇格要件の一つにもなる。

 ポイントが認められるものは、トマトの収穫体験や同社独自のオムライス検定から、英検やロジカルシンキング講習、簿記など多岐にわたり、ニュース検定もその一つだ。

 同社人事部の山田健太郎さん(32)は「会社として特別にニュース検定を勧めているわけではないが、ここ数年、社員からのポイント申請が増えている。世の中の変化に広く目を向けることは新しいビジネスにもつながる。時事力を自ら把握し、他の人にも見える形になる点でニュース検定は有用だ」と話している。